名古屋地方裁判所 平成9年(ワ)3979号 判決 1999年4月14日
本訴原告
鈴木惠美子
ほか一名
本訴被告
東和交通株式会社
ほか一名
反訴原告
東和交通株式会社
反訴被告
鈴木惠美子
主文
一 本訴被告(反訴原告)会社及び本訴被告杉原は、本訴原告宣男に対し、各自金一六万三三五五円及び内金一四万九三五五円に対する平成八年一一月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 本訴原告宣男のその余の請求を棄却する。
三 本訴原告(反訴被告)惠美子の請求を棄却する。
四 反訴被告(本訴原告)惠美子は、反訴原告(本訴被告)会社に対し、金六六万四五七二円及びこれに対する平成八年一一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 反訴原告(本訴被告)会社のその余の請求を棄却する。
六 訴訟費用は、これを一二分し、その三を本訴原告宣男の負担とし、その一を本訴被告・反訴原告会社の負担とし、その二を本訴被告杉原の負担とし、その余は本訴原告・反訴被告惠美子の負担とする。
七 この判決は、第一項及び第四項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 本訴
1 本訴被告両名は、本訴原告惠美子に対し、各自金一一六万一九一四円及び内金一〇一万一九一四円に対する平成八年一月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 本訴被告両名は、本訴原告宣男に対し、各自金六八万五四五〇円及び内金六一万五四五〇円に対する平成八年一一月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴
反訴被告は、反訴原告に対し、金九四万三六七五円及びこれに対する平成八年一一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え
第二事案の概要
本件は、本訴原告・反訴被告惠美子(以下「原告惠美子」という。)と本訴被告杉原(以下「被告杉原」という。)との間の交通事故について、原告惠美子が被告杉原及び本訴被告・反訴原告会社(以下「被告会社」という。)に対して自動車損害賠償保障法三条又は民法七〇九条、七一五条に基づいて損害の賠償(遅延損害金につき不法行為の日の翌日である平成八年一一月一六日から起算)を請求した事案及び本訴原告宣男(以下「原告宣男」という。)が被告杉原及び被告会社に対して民法七〇九条、七一五条に基づいて損害の賠償(遅延損害金につき不法行為の日の翌日である平成八年一一月一六日から起算)を請求した事案(本訴)と、被告会社が、原告惠美子に対して民法七〇九条に基づいて損害の賠償(遅延損害金につき不法行為の日である平成八年一一月一五日から起算)を請求した事案(反訴)である。
一 争いのない事実又は括弧内の証拠により容易に認定することができる事実
1 本件事故の発生
平成八年一一月一五日午後九時四五分ころ、名古屋市天白区天白町大字植田字源右エ門新田一五五番地先の信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)において、西方(大坪一丁目方面)から南方(植田西交差点方面)に向かって右折進行しようとした原告惠美子が運転する普通乗用自動車(以下「原告車」という。)と、東方(日進市方面)から西方(大坪一丁目方面)に向かって直進しようとした被告杉原が運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)とが衝突した(争いがない。)。
2 本件事故による原告惠美子の受傷と治療の経過
本件事故により原告惠美子は頭・左指挫創、頸部・左肩・右肢挫傷の傷害を負い、平成八年一一月一五日から平成九年一月二七日までの間、名古屋記念病院において、通院治療(実通院日数一五日)を受けた(甲三号証)。
3 原告車及び被告車の所有と、被告会社の運行供用者性及び使用者性
原告宣男は、原告車の所有者である(甲五号証)。被告会社は、被告車の所有者であり、本件事故当時、被告車を自己のために運行の用に供していた(甲二号証)。また、被告杉原は、本件事故当時、被告会社の従業員として同被告の業務を執行中であった(争いがない。)。
4 既払金
原告惠美子は、本件事故による損害の賠償金として、自賠責保険から三六万一〇〇〇円の支払いを受けた(争いがない。)。
二 争点
1 本件事故の態様と、原告惠美子及び被告杉原について過失の有無、過失相殺
(原告惠美子及び原告宣男(以下「原告両名」という。)の主張)
本件事故は、対面する信号機の右折青色矢印の表示に従って本件交差点に進入した原告車と、対面する信号機が赤色を表示しているにもかかわらず本件交差点に進入した被告車とが衝突して発生したものである。
したがって、本件事故の責任は、対面する信号機の赤色表示に従って停止すべき注意義務を怠った被告杉原の一方的な過失にあるのであって、原告惠美子に過失はない。
(被告会社及び被告杉原(以下「被告両名」という。)の主張)
本件事故は、対面する信号機が青色を表示しているのに従って本件交差点に進入した被告車と、対向する直進車線から突然右折進行してきた原告車とが衝突して発生したものである。
したがって、本件事故の責任は、交差点で右折進行するに際して対向方向から直進してくる被告車の進行を妨げないようその通過を待ってから右折進行するべき注意義務を怠った原告惠美子の一方的な過失にあるのであって、被告杉原に過失はない。
2 損害額
(原告両名の主張)
(一) 原告惠美子の損害
(1) 治療費 一四万七二〇〇円
(2) 文書料 八〇〇円
(3) 通院交通費 一万二〇〇〇円
一日あたり八〇〇円の一五日分
(4) 休業損害 七一万二九一四円
平成六年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・女子労働者・学歴計四五歳~四九歳の年収三五一万六四〇〇円を基礎に、平成八年一一月一五日から平成九年一月二七日までの七四日間分
(5) 慰謝料 五〇万円
(二) 原告宣男の損害
(1) 車両損害(経済的全損) 四五万円
(2) 車両けん引料 八〇〇〇円
(3) 評価料 三万九八五〇円
(4) 代車費用 一一万七六〇〇円
一日あたり八〇〇〇円の一四日間分
(被告会社の主張)
被告会社の損害
修理費用 八六万三六七五円
第二争点に対する判断
一 争点1について
1 証拠(甲一号証、一〇号証の一、二、一一号証、乙一号証、七号証から一〇号証まで、原告惠美子本人、被告杉原本人)によれば、前記争いのない事実等に加えて、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
本件交差点(通称「植田一本松交差点」)は、東西方向に延びる、原告車及び被告車が走行していた道路(以下「東西道路」という。)と、南北方向に延びる道路とが交わる交差点である。東西道路は、本件交差点の東側においては、幅約三・二メートルの草地の中央分離帯のある片側二車線の道路であるが、本件交差点付近には右折車線が設けられており(車道の幅約二一・四メートル)、第一車線は左折、第二車線は直進、第三車線は右折に進行方向が区分されている。また、本件交差点の西側においては、幅約七・六メートルの草地の中央分離帯のある東進方向二車線、西進方向一車線の道路であるが、東進方向の本件交差点付近には右折車線が設けられている(車道の幅約二二・一メートル)。原告惠美子の右前方及び被告杉原の前方の見通しはいずれも良い。東西道路の最高速度は、本件交差点の東側、西側のいずれについても最高速度が時速五〇キロメートルに制限されている。
本件交差点の信号機は、平成一〇年五月八日午後九時四五分現在、東西道路については、青色四五秒間、黄色四秒間、青色右折矢印及び赤色九秒間、赤色七二秒間の順に表示するよう制御(一サイクル一三〇秒)されており、東側に隣接する植田中学校北交差点及び天白高校北交差点(いずれも信号機により交通整理が行われており、東西方向の信号機は一サイクル一三〇秒で同時に青色を表示し始めるように制御されている(植田中学校北交差点については、青色六七秒間、黄色四秒間、赤色五九秒間の順に表示、天白高校北交差点については、青色七一秒間、黄色三秒間、赤色五六秒間の順に表示するようそれぞれ制御されている。)。)とは、右両交差点の東西の信号機が青色を表示した一二秒後に本件交差点の東西の信号機が青色を表示し始めるように連動している(本件事故後本件交差点の東方において国道三〇二号線の整備が一部完成してはいるが、本件交差点付近の信号機は、本件事故当時も右同様に制御されていたと推認することが可能であり、特に右推認を妨げるような事情はない。)。
原告惠美子は、名古屋市天白区植田山一丁目一七〇九所在の大塚徳弘宅から自宅に向かって、時速約五〇キロメートル(秒速約一三・八メートル)の速度で原告車を運転し、東西道路の第二車線を東進していたところ、本件交差点では対面する信号機の表示に応じて直進又は右折しようと考えていた。
原告惠美子が本件交差点に近づいた地点で対面する信号機を確認したところ青色から黄色にその表示が変わったため、原告惠美子は、原告車の速度を若干落としたものの徐行することなく、時速約四〇キロメートルの速度で本件交差点を右折した。その後原告車の左側面に被告車の前部が衝突して本件事故が発生した(原告惠美子は、本件交差点の手前の横断歩道のさらに約三、四〇メートル手前の地点で対面する信号機の表示が黄色に変わり、右横断歩道付近で青色右折矢印が表示されたと述べるが、前記信号サイクルや原告車の速度に照らすと不合理で信用できず、他に原告車が本件交差点に進入した際にその対面信号機が青色右折矢印を表示していたことを認めるに足りる証拠もない。)。
他方、被告杉原は、被告会社のタクシーである被告車で乗客を和合ケ丘団地まで送った後、名古屋市の中心部に向かって、東西道路の第一車線を時速約四〇キロメートルの速度で被告車を運転していた。
被告杉原が、本件交差点を直進しようと、左折専用車線である第一車線から直進専用車線である第二車線に車線変更した後、本件交差点の手前約三四・〇メートルの地点で対面する信号機の表示を確認し、青色が表示されていたためそのまま進行して本件交差点に進入したところ、右地点から約四八・九メートル進行した地点で、その間に右信号機の表示は黄色に変わったことから右折進行してきた原告車を右前方約一二・一メートルの地点に初めて発見して衝突の危険を感じ、急制動の措置を講じたものの間に合わず、さらに約八・〇メートル進行した地点で、被告車が原告車に衝突して本件事故が発生した(右衝突の状況及び被告車の速度からすると、被告車の対面する信号機の表示は被告杉原が前記青色表示を確認した後間もなく黄色表示に変わっており、その際にその表示を被告杉原が確認していたならば、十分に本件交差点の手前で被告車を停止させることが可能であったと推認することができる。)。
2 原告惠美子の供述(甲一一号証、原告惠美子本人)、被告杉原の供述(乙一〇号証、被告杉原本人)中には、1に認定した事実に反しそれぞれ原告両名、被告両名の主張に沿う部分があるが、右部分はいずれも原告惠美子及び被告杉原がことさら自己に有利に述べるもので不自然な点が多く容易に信用することができず、他に原告両名及び被告両名の主張を認めるに足りる証拠もない。
3 1に認定した事実によれば、本件事故は、いずれも対面する信号機が黄色を表示している状況で本件交差点に進入するに際して、対向車線を直進する車両の有無の確認を怠った原告惠美子の過失と、信号機の表示の確認と対向車線から右折進行してくる車両の有無の確認を怠った被告杉原の過失の競合によって発生したものということができる。そして、右両者の過失が本件事故の発生について寄与した割合については、原告惠美子が七割、被告杉原が三割ということができる。
したがって、被告両名には原告両名に生じた損害を賠償すべき責任があり、他方原告恵美子には被告会社に生じた損害を賠償すべき責任がある(もっとも、前記のとおり、原告両名の損害を算定するについては原告惠美子の過失を斟酌してその額を七割過失相殺するべきであり、他方被告会社の損害を算定するについては被告杉原の過失を斟酌してその額を三割過失相殺するべきであるということになる。)。
二 争点2について
1 原告惠美子の損害
(一) 治療費 一四万七二〇〇円
証拠(甲三号証、一三号証)により、これを認めることができる。
(二) 文書料 零円
原告惠美子の主張する文書料が、いかなる文書のためのものであるか明らかでない。
(三) 通院交通費 一万二〇〇〇円
証拠(甲三号証、四号証、一三号証)により、これを認めることができる。
(四) 休業損害 一四万八四四〇円
証拠(乙六号証の一から八まで、原告惠美子本人)によれば、原告惠美子は本件事故当時四五歳の主婦であり、老人介護などのボランティア活動をすることはあるもののもっばら家事に従事していたこと、本件事故後も原告惠美子宅では、時折原告宣男や娘の手伝いを受けるものの、原告惠美子が家事のほとんどを行っていたこと、本件事故後右ボランティア活動を休むことはなかったこと、原告惠美子が受けていた治療は鎮痛剤や湿布薬の投与、運動療法であることの各事実が認められる。
右事実によれば、原告惠美子の休業損害は、平成八年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計四五歳~四九歳の年収三六一万二一〇〇円(一日あたり九八九六円)を基礎に、実通院日数(一五日)分とするのが相当である。
(五) 慰謝料 三五万円
前記原告惠美子の通院の状況からすると、原告惠美子の慰謝料としては三五万円が相当である。
(六) 合計 六五万七六四〇円
2 原告宣男の損害
(一) 車両損害 四五万円
証拠(甲五号証、六号証の一から四まで、七号証)により、原告車がいわゆる経済的全損の状態になり、その評価が四五万円である事実を認めることができる。
(二) 車両けん引料 八〇〇〇円
証拠(原告惠美子本人)により、これを認めることができる。
(三) 評価料 三万九八五〇円
証拠(甲六号証の一から四まで)により、これを認めることができる。
(四) 代車費用 零円
証拠(甲八号証、一四号証、原告惠美子本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告宣男は本件事故後代車として使用したと主張する車両を購入したこと、原告宣男が代車を使用したのは平成八年一一月一六日から右車両購入の日である同年一二月四日までの一九日間であるとしながら一四日間分の代車料金の請求書が平成九年八月八日付けで作成されていること、右請求書の作成に関わる高橋進は原告両名に関する保険の担当者として本件事故の直後から原告惠美子の実況見分につきあうなどしていたことの各事実が認められ、右事実に照らすと、前記証拠中原告宣男が右高橋に対して代車費用を負担したとの主張に沿う部分は信用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
(五) 合計 四九万七八五〇円
3 被告会社の損害
証拠(乙四号証、五号証)により、被告車の修理費用として八六万三六七五円を被告会社の損害として認めることができる。
三 二に認定した原告両名及び被告会社の損害額について前記のとおり過失相殺すると、原告惠美子の損害額は一九万七二九二円、原告宣男の損害額は一四万九三五五円、被告会社の損害額は六〇万四五七二円となる。
そして、原告惠美子の損害額から前記争いのない既払金を損益相殺すると、原告惠美子の損害についてはすべててん補されていることになる。
原告惠美子、原告宣男及び被告会社は、本件訴訟追行のための弁護士費用として、それぞれ一五万円、七万円、八万円を請求するが、以上によれば、原告惠美子については零円、原告宣男については一万四〇〇〇円、被告会社については六万円をそれぞれ相手方が負担すべきとするのが相当である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 榊原信次)